書けないときには

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 書けないときには書かないと素人なら居直ってしまえばすむのだが、玄人となるとそういうわけにもいかないらしい。
 たしかになりわいがかゝるし、約束をほごにしたあとの応報もこわいものだろう。
 書けないときも書くのがプロだなんて見栄も馬鹿にできないことかもしれない。
 しかし、書けないときは誰だって書けない・・・・・・だろう。
 乾いたぼろ雑巾をいくらしぼったって、水一滴でないようなものだ。
 どのようにドツボが口をあけているのかしらないが嵌れば七転八倒の苦しみをしばらく味わわなくてはならない・・・・・・もののようだ。
 
 作家の随筆でもよくその辺のことを話題にしている。
 締切がきて、なお書けないときは、カンズメということになるらしい。
 通常はホテルの一室に編集者の監視づきで閉じ込められるようだが、いよいよとなると印刷所などとせっぱつまった話も少なくはない。
 他人の監視のもとで書かされるのがどんな気分のものか、私など考えただけでも頭痛がしてきそうだが、それで傑作をものにする人もいないわけではないのだからやっぱりプロは違うということか。

 もっとも、そんなホラ話のようなかたちですべてが落着するわけではない。
 書けないというのは傍で想像するより、よほど深刻な状況らしく、雲隠れ、居留守、虚言、はては原稿の使いまわし、盗作と追い詰められた書き手はおよそ考えられるかぎりの悪あがきをする。
 あげくは神経を病らったり、自殺をしたり、もちろんこんな話にもならない話は当人が書くはずもなく、時効になった後、周辺の人がぽつりともらすことだ。
 
 私は期限の追った依頼原稿をかゝえて、四苦八苦しているところだから身につまされる。
 玄人でなくてよかったとしみじみ思う。
 今夜はどうも物にはならないようだから頭からふとんをかぶって早寝でもしよう。

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