腕時計

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 最近では千円でおつりがくるような腕時計もめずらしくなくて、それが信頼性や耐久性、デザイン性でも馬鹿にできないのだという。
 中途半端よりいっそと愛用する女の子も少なくないらしい。
 しかし、いいかげんな年になったらそれなりのものをと思うのも人情かもしれない。
 もっとも、このそれなりのという感覚は難しいがそこらへんの若いサラリーマンにも百万円を越える腕時計をしている者がザラにいるらしいから驚かされる。
 さすが経済大国日本、時代の徒花で終わらないことを祈りたい。

 私は陶芸で生きようと思い定めて、内弟子に入る時、腕時計を棄てた。
 焼きもの屋は存外、手を濡らす仕事が多く、その度にいちいち腕時計を脱着するのもわずらわしかったが、この先、自分は時間に拘束されない生き方をしようという決意でもあった。
 気障と笑われてもしかたがない。
 最初はとまどうこともないわけではなかったが不便を感じなくなるのにそれ程、時間はかヽらなかった。
 日本人は時間に神経質なせいか、いたるところに時計がある。
 自動車にはへたをすると3個もついていたりする。
 ラジオでは30分ごとに正確な時報があるし、日時計、腹時計のたぐいも意識していればまんざら使えないわけではない。
 身に付けるつもりがないからオメガだのローレックスだのにもまるで心が騒がない。
 私は本来こだわるたちでこだわる以上、当然最高をめざすからこういう無関心は精神衛生上もきわめてありがたい。
 焼きもの屋になってよかったと思うことの1つではある。

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