電気炉

 最近の電気炉にはあたりまえに自動焼成装置が組み込まれていて、スイッチを入れさえすればそれですむ。誰れでもそこそこに焚き上げることが可能なように出来ている。
 あの問題はどうするの、この件についてはどうなるのと玄人としてはつっこみの一つも入れたいところだが所詮、そこまでの要求は無視しておいてもかまわないのだろう。
 データをプログラミングすればどこがどう作動してどうなるのか、正直なところすでにもうなにがなんだかわからないのだが機械はいつの間にか人間よりはるかに利巧になってしまったようだ。
 昇温も降温も緩急自在、指示が正確ならほとんどエラーも発生しない。
 30年前、私が独立した頃はまだ電気炉はすべて手動でねかしも停止もすべて時計を見ながら自分でしなければならなかった。
 肝心な時に電話が入ったりして、応対しているうちに、炉のことはすっかり念頭からすっとんで気が付いたときにはもう取り返しもつかないことになっていたという、泣くに泣けないような経験は、その時代の陶芸家ならみんな一度や二度はしているにちがいない。
 だから遮断器が出現した時はありがたかった。
 これは設定した温度に到達したら電気を遮断するだけの、今からすればひどく単純な機械だったがおかげで電熱線が焼き切れるまで放置したりすることはなくなった。
 それから間もなく遮断にねかし機能がついた半自動と呼ばれる焼成装置が普及し始めた。
 便利な分、目の玉が飛び出すほど、高値だったが電気の方の知識がある人だったらタイマーだのリレーだのという部品を組み合わせるとけっこう簡単に手造りも出来るらしかった。
 私も知人に組立てもらって、そんなセットを20年来使用している。
 当時、4万円もかゝっただろうか。数年前温度表示器を取替えたが今だに健在だ。
 その時、よっぽど今日的な焼成装置に入替えようかと迷ったが別に現状のままで不自由もないので思いとどまった。
 施釉の技術、窯詰めの経験則、ふん、結局、最後は腕だと思う一方で年と取ったということさと多少の自嘲もないわけではない。
 職人気質などもうとんと流行ない。

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