霍乱

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 朝、起きるとはげしい眩暈がして立っているのも困難な程だった。小用をたすにも支障をきたすぐらいで吐き気もある。
 とりあえず這うようにしてベットに戻った。
 ベットに臥すと小康を得るがそれで納まったかと起きあがるとやっぱり目は廻る。
 なんのことはない、若い頃にさんざん味わった二日酔いのひどいやつ、その状態にそっくりなのだがしかし、前夜思いあたるような酒の呑み方はしていない。
 しようもなくベットでうつらうつら時間を過すと、夕方になって回復した。
 ひょっとして一滴二滴のアルコールさえ分解できない程、肝臓がやられてしまったのかと考えて厭な気分になったがそれならそれでもっとほかにも症状が出るはずだと自分自身にいいきかす。
 そんなことが二三週間前にもあって、これが二度目だから女房が取り乱すのもわからないわけではない。

 特に摂生するわけでもなく長い間ほったらかしの体だから、検査をすればあちこちに不具合は見つかるだろう。
 知らなければそれまでだが知ったとたんに病人になる。
 そういう頭があるから私はぐずぐずするわけだが女房と争っても勝てるはずもない。
 翌朝、指示されるままに知り合いの看護師さんに電話で相談すると当然すぐにでもこいという。
 脳に原因があることだってあるなどと驚かされて、ついに重い腰を上げるはめになった。

 実にひさしぶりの病院だった。
 前回はいつだったかと考えても、すぐには思い出せないぐらい昔のことだ。
 二、三時間は待たされるものと覚悟して本をかヽえて出かけたのだが待合室は人もまばら、待つ程もなく順番が来た。
 医師も看護師も妙に人当たりがやわらかい。どうも待たされ、引きまわされて、叱責されるという記憶の中のイメージとは違うようだ。
 なぜそうなったのかわからないがよく替わるにはこしたことがない。
 血圧、血液、心電図、脳のMRIと一通りの検査を受けることになった。

 翌日、結果を聞きに再び病院へ、いかに世に擦れたとはいえさすがに合否の発表を見に行く受験生程度には緊張する。
 しかし、なんとしたことか、血液、心臓、脳、いずれにもなんの問題もなかった。
 ついた病名は「良性発作性頭位目まい症」。耳鳴り、難聴、ことばの障害、手足のしびれ、意識障害、生命にかヽわることはありませんということだった。
 拍子ぬけとはこのことだろう。脳に異常がないとわかったのはちょっと喜しかったが、まったく人驚せな。
 特別な治療法もないとかで、うまく症状をあやしながらなれていくしかないのだろう。
 とりあえず、もう少し、世にはばかることになった。

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