振りさけ見れば

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 陶芸家の看板のせいかどうか、たまに原稿の依頼がある。
 今回は人生をふりかえってというものだった。
 わかる人にはわかると思うが800字は本気で書こうと思えば短すぎ、適当にごまかすには長すぎる。しかしこれがコラムの基本的な字数なのだからしかたがない。

 よい思案もなく机に向う。コラムの場合は最後から始めるという人がけっこういるようだ。おちを決めてから書き出す方式、一瞬その気になって、自分にはそんな芸はないとすぐにあきらめた。

 800字、人生、62才だからすると私の1年は12,3字になるのだろうか。
 この思いつきが気に入って、20罫、20行の原稿用紙の上から13桁目に線を引いた。
 1行目に1月19日誕生と書くともう7文字だ。それで月日は棄てヽ、一、誕生、父美登、母御代子と書き直してなんとか納める。
 2行目、1才9ヶ月、小児麻痺に罹患、後遺症と書く余白はなかった。
 3行目 弟、格、誕生、3月24日、弟の場合は月日も入れる余裕がある。

 こうして書いてみて初めて気がついたことがいくつかある。
 私が高熱で生死の境をさまよっていた時、母は6ヶ月の身重だった。
 そうすると片輪になるぐらいなら死んでくれた方がいいという父の言葉もさらに実感を増す。

 私を養子に出す話もあったと聞いている。父と母の生活が子供をかヽえてなりたたないような状況だったのかもしれない。
 当然それも、病気にかヽる以前の話だったろう。なにも好きこのんで跛の子供をもらおうとする者はいない。

 それでもその人は終生、私を特別あつかいして可愛いがってくれた。私も北野のおっちゃんと呼んでなついたものだ。もし養子にいっていたらと思ったことがしばしばある・・・・・・。

 たった3行のあいだにも、これ程のことがらがあるのにいささかおどろいている。
 残り59行、完成させるとしたらどんなことになるだろう。
 
 800字の原稿は今日はもうあきらめて、4行目4才の自分を想い出すことにしよう。

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