次郎長三国志についてはいさヽか辛口で

 マキノ雅彦の次郎長三国志を観た。
 観たといっても、DVDを居間のテレビで再生しただけのことだからたいして威張れるわけでもない。
 もっとも前作、初監督の寝ずの番は息子に唆かされて、映画館で観た。思ったより出来がよかったのでこの作品も実は映画館で観るつもりでいたのだが、それがなんのかんのと予定が狂って、結局家でDVDということになってしまった。
 しかし、それでよかった。これを映画館で観たらきっと腹をたてたことだろう。

 出だしは悪くなかった。宇崎竜童の唄う旅姿三人男に乗って書割のような富士山と茶畑が現れたときには田舎芝居の幕あけをみるようで大いに期待させられた。
 こねたとこしばい、しゃれとおちとで、小粒ながらピリッと楽しませてくれるのだなと膝を乗り出す思いだった。

 おきん役の真由子が小気味いい啖呵を切る。女郎を身請にいって死に分かれて帰ってきた法印大五郎役の笹野高史が次郎長、お蝶の前で口説く、大熱演だ。あくが強くて好きではないが長門裕之だって、出番では見ごたえのある演技で場をさらう。そこここに見処はあるのだがそれが繋がらない。

 だいたい北村一輝にはどんな役柄をふったつもりだったのだろう。追分政五郎というから名前が違うんじゃないかと思っていると突然、お前は今日から小政だなんて、いくらなんでも乱暴すぎる。そのせいかどうか、二枚目半で演じていたはずが、芸もなく二枚目になり下がった。
 旅籠の二階で出窓にもたれて色男ぶってみせる、あのシーンはいったいなんだったのだろう。
 まさか、かって美男でならした監督自身へのオマージュ、なんて話にもなるまいが・・・。

 もっとも白けたのはお蝶の臨終の場面。役者の芸の見せ所とたっぷり時間をとったのだろう。現場では仲間内でそれなりに盛り上がったのかもしれないがそれが画面からはまったく伝わってこない。
 こんなおいしい場面をさらってみせるような根性のある役者はいないのか。
 同じような科白、同じような泣きが冗漫に続くのはただただ辟易させられた。

 殺陣もおそまつ。次郎長役の中井貴一は今では数少ない時代劇スターの一人だがだからといって誰もかれもを一手に切り棄てるのはいかがなものか。
 当節は刀を振り回したことがない役者も少なくないのかもしれないが、やはり時代劇にとって殺陣は花、とくに集団乱闘シーンにはそれなりの工夫がほしい。

 広沢虎造の次郎長伝は今も人気だという。知っている人は知っていて展開の先を読むのも楽しいものだ。次郎長伝というからにはそのおヽよそは変更なしになぞってほしい。
 萩野目慶子のお駒だっておかしな説明科白をつけるからかえってやヽこしくなるのであって、だまって保下田の久六の妾にしておけばそれはそれですんだはずだ。
 それにしても蛭子能収はひどかった。あれでもどこかで一つ悪辣な顔でもしてみせればもうちょっとなんとかなったかもしれないのだが。

 最後に上映時間のこと。
 単独上映だから2時間はほしいと端からきめてあったものか。
 潤沢な予算があるはずもないから撮影したフィルムを無駄にしたくない気持もわかる。出演料を値切った分だけ出番で花を持たせなきゃならない義理もあるだろう。
 だからといってただただ空疎な2時間につきあわされる側はつらい、

 私はプログラム・ピクチャーと呼ばれたかっての日本映画が好きだ。雷蔵がいて裕次郎がいて話がきちっとまとまるから見終わって気持がよかった。
 大スターの顔にたよれない分だけ大変なのかもしれないがマキノと名のるからには叔父、雅弘の手際も受け継いでほしいものだ。
 がんばれ、マキノ雅彦!
 とりあえず次回作では初心にかえった演出を期待する。

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